クリミア併合
欧米の足下をみたプーチン大統領。
今であれば、まだNATOに加盟していないので、
欧米が軍事的介入はできない。
ここを見越しているのだ。
日本がもっとも避けたい中・ロの接近
<詳細>
世界はクリミア危機で大騒ぎだ。CNNなどを見ていると、まるで第三次世界大戦勃発のおそれもあるような報道ぶりだ。また、米国の弱腰を指摘する報道もしばしば見られる。
世界史の授業で、1853年から56年の間、地政学上の重要拠点のクリミア半島などを舞台としたクリミア戦争を習った人も多いことだろう。ナイチンゲールが看護師として従軍したことでも有名だ。
ロシア帝国とフランス、英国、オスマン帝国の同盟軍が戦った近代史上まれにみる大規模な戦争だった。不凍港を求めたロシアの南下政策がもたらした戦争というのが定説である。ロシアがクリミアを実効支配できずに極東に出てきた結果が、1904年の日ロ戦争になっている。このとき、清が参戦できなったのは、日英同盟のおかげだ。
ソ連邦崩壊からの歴史を振り返っておこう。1980年台後半の東欧民主化革命を契機として、ソ連邦は、エストニア、ラトビア、リトアニア(バルト三国)の独立から始まり、結局1991年12月に15の共和国(バルト三国、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、アゼルバイジャン、アルメニア、グルシア、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン、カザフスタン)に分裂した。
東側の軍事同盟であるワルシャワ条約機構は、ソ連、ブルガリア、ルーマニア、東ドイツ、ハンガリー、ポーランド、チェコスロバキアで構成(アルバニアは1968年に脱退)されていたが、1991年7月に解散となった。その後2009年までに旧ソ連(バルト三国を除く)以外の旧加盟国、つまり、ブルガリア、ルーマニア、東ドイツ、ハンガリー、ポーランド、チェコ、アルバニア、は、NATO(北大西洋条約機構)に加盟してしまった。
こうなってくると、ロシアは、ウクライナとベラルーシの向こうはNATOになってしまう。特に、地政学上の要所であるクリミアのあるウクライナが、どちらの側に立つのかが、決定的にロシアにとって重要になってくる。
1991年にソ連が崩壊し、ウクライナが独立すると、ロシアとウクライナの間で帰属を巡る対立が勃発している。
現在、クリミア半島の住民のおよそ6割をロシア系が占めている。ロシアは協定に基づき2017年まで半島内の軍港、セバストポリに黒海艦隊を駐留させている。これに対し、04年の大統領選で勝ったユーシェンコ政権は親欧米で協定が切れ次第、ロシア軍は出ていくべきだと主張し、10年の大統領選で勝ったヤヌコビッチ政権は、親ロシアで、協定を25年延長する考えだった。
しかし、ヤヌコビッチ氏に対する国民の不満が高まり、同氏は身の危険からロシアに脱出。再び、親欧米派の政権になったがとたん、ロシアが軍事介入しきたというのがこれまでの状況だ。
ロシアから見れば、親欧米派の政権がウクライナにできることは、クリミア半島を失うことを意味しており、死活問題と考えている。もともとクリミア半島はロシアのものと考えているので、政権の背後に欧米が見え隠れすることは容認できないというわけだ。
一方、欧米からみれば、東欧民主化の延長でウクライナがEU(欧州連合)やNATOに加わり、さらにクリミア半島を押さえれば、ロシアの南下政策に歯止めがかかり、対ロシア戦略上願ってもないことになる。
長い目でみれば、東欧民主化の延長が続くと思う。ロシアもその点を考慮して、G8に加わるなど欧米陣営に歩み寄っている。しかし、短期的にはウクライナが欧米に組み込まれたくない。
もしウクライナがNATOに加わったら万事休すだったが、欧米の足下をみたプーチン、今であれば、まだNATOに加盟していないので、欧米が軍事的介入はできない。ここをプーチン大統領は見越しているのだ。
欧米ができるのは経済制裁だが、すぐには効果が出ない。今のうちに、一見「民主的な手続き」の住民投票で、せめてクリミア半島だけでもロシアに帰属させたいというのが、ロシアの戦略だ。
ここで日本としてはどうしたらいいのか。短期的な日本の国益を考えると、不謹慎にみえるかもしれないが、本音としては、クリミアで欧米とロシア間がもめて、その結果としてロシアがクリミアを実効支配したほうがいい。というのは、ロシアの南下政策が極東に向かなくてすむからだ。日本がもっとも避けたい中・ロの接近。特に、軍事費を伸ばしている中国とロシアが極東で米国に対抗して手を組むと、日本としてはお手上げの状態になる。こうした事態はできるだけ避けたい。
日本の外交上の戦略としては、ウクライナが地理的に遠いということもあるので、欧米とロシアのぶつかり合いに巻き込まれないようにすべきだ。G8(主要8カ国首脳会議)などでは欧米寄りで行動しつつも、ロシアとの関係も良くして、ロシアが中国側に走らないようにすることが重要だ。
2014.03.18
文献:現代ビジネス 高橋洋一先生
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/38611?media=gbClub Tourism International