必要のない戦争

第二次世界大戦が終わった時、

イギリスの首相であった、

かのチャーチルは、

この戦争の意義について問われ、

次のように答えた。


これは必要のない戦争であった。


我々がもっと早く

戦争の決意さえしていれば、

容易に防げた戦争であった。


これは、

大変に示唆に富んだ言葉である。


私なりの言葉で言い換えれば、


第二次大戦は、

「平和主義者」の巻き起こした戦争である。


ということになる。

その理由は、

次のようなものだ。


第一次大戦が終わった時、

勝者も敗者もヘトヘトになってしまった。


かつて世界の中心であったヨーロッパは、

見る影もない惨状を呈していた。


世界をリードしていた

ヨーロッパ文明も

ヨタついてしまって、

もう一度こんな惨禍を繰り返したら、

西欧文明は破滅してしまうだろうと言われた。


ああもう戦争はイヤだ。

どんなことがあっても戦争だけはしたくない。

英国人もフランス人もドイツ人も、

みんなこう叫んで呻いた。


不戦条約なんていう、

日本国憲法そっくりの国際協定ができて、

国際紛争解決の手段としての

戦争は永久に放棄されることになった。


こんな風潮の中から、

ヨーロッパに現われた

運動の一つが

平和主義である。


平和主義者の大学生は宣言した。


「我々は、

もはやどんなことがあっても、

国王と祖国のために銃をとることを拒絶する」


ところが、

大変皮肉なことに、

このような空想的平和主義こそが、

第二次世界大戦の大きな原因となったのである。


平和を願っての彼らの努力は、

報いられないどころか、

かえって平和の基礎を堀り崩し、

戦争への道を切り開いたのだ。


それは次のような過程を踏んだ。


空想的平和主義者の勢力が強くなったために、

彼らの主張に本心で賛成であると

否とにかかわらず、

これに公に反対することは

政治家にとって自殺行為に

等しいという世潮が

できあがってしまったのである。


そう、今の日本のような状態である。


そのために、英仏は条約上、

当然許されている軍事行動がとれなくなり、

みすみすヒットラーをして

〝征服のための進軍〟

許してしまったのだ。


これによってヒットラーは、

戦争なくしては手に入れられないような、

あるいは戦争によってすら

入手できないような獲物を次々に獲得し、

その栄光は星辰にも達するかと思われた。


そして、悪循環というべきか、

このことによって、

ヒットラーの征服は、

ますます容易に、

かつ迅速になっていったのであった。


小室直樹大先生『国民のための戦争と平和』